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2008年02月22日

その8:まとめ

以上,『表外漢字字体表』例字字形に関して考察した。これをまとめれば,

  • 例字文字は平成明朝体を採用した。
  • 『表外漢字字体表』建前としては,『常用漢字表』を引き継ぎ,デザイン差について,きわめて広範囲に定義しているように見える。
  • しかしその一方,デザインレベルで標準の平成明朝体の字形を変更した。
  • この字体表は「印刷標準字体」としての性格を持ち,したがって字形の細部まで関心が集まるにも関わらず,その理由については,同字体表上でまったく触れられていない。
  • さらに,この変更された差異が「印刷標準字体」としての拘束条件になるかのような誤解を助長する可能性がある。
  • すでに,この字形に引きずられた字形デザインを行った漢和辞典が出現している。
といったところであろう。しかし,この変更によってデザイン統一がなされ,模範的な例字字形を提供したのであれば納得もできる。だが実態はそうでもないのである。
『表外漢字字体表』には「摯」と「贄」という文字が含まれる。
「摯」と「贄」.JPG
この二つの文字の冠部は同形であるから,デザインとしても同一にしてよいものであるが実際には右図のようになっていて,部分字形「丸」が曲げハネとカギハネ,という具合に統一されていない。
「久」のわずかな起筆位置や「瓦」の曲げハネかカギハネかというところにこだわっていながら,この2文字の不統一を見逃している。これは単なる見落としなのであろうか。
むしろ見落としであった方が人間味があってよかった。しかし,どうもこれは意図的なものと推測できる。このデザイン,標準の平成明朝体でもこうなっているのだが,それを容認したのである。なぜか。
これは1978年のJIS X 0208(そのときの規格番号はJIS C 6226であったが)に遡る。この規格は初めての漢字を含む日本語符号化文字集合を定めた規格であったが,そこで例字文字を提供したのが写研であった。写研は,この文字集合に用いる書体の帰属権を主張し,規格制定に際してはそれを尊重したので,元のデザインをいじることはしなかった。
「摯」と「贄」のデザイン差は,この書体の「クセ」だったのである。この書体は83年JIS改訂に際しても規格例字字形として使用されたから,この部分も継承された。90年の改定で例字書体に平成明朝体を使用することになり,JIS一,二水の文字はJIS規格に採用される前提でデザインのチューニングが図られた。そのとき,当時の通産省工業技術院は83年改定での混乱の二の舞を踏まないとの「決意」で臨み,「微細なデザイン差はもともとどうでもよいのだからできるかぎり元字形のままにする」という方針を立てた結果,この文字についてもあえてデザイン統一をしなかったのである。
このことは何を意味するのであろうか。字体を論じるに際して,関係ないデザインの違いを同レベルに捉えるという間違いを犯したのである。しかも,その間違いを『表外漢字字体表』でも追認した。けっきょく,20年たっても日本の文字字形に関する認識のレベルは変わっていないということをも証明したわけだ。しかも,ほとんどのフォントメーカーも右へ倣えをしている。そろそろ『表外漢字字体表』を教訓として字体差とデザイン差の違いぐらい分けて考える智恵をつけてもらいたいと思う。
これこそが『表外漢字字体表の「字形問題」』のまとめである。

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2008年02月18日

その7:部分字形「瓦」について

順番から言えば「非」についての分析となるのであるが,これについてはすでに詳細に論述した。したがって,ここでは問題として指摘した最後の「瓦」を取り上げる。
部分字形「瓦」を持つ文字は「甑」(ただし偏は「曾」)であるが,この「瓦」の字形は平成明朝体の標準字形とは異なる。つまり平成明朝体を採用するにあたって,この部分字形のデザインを変えたわけである。
平成明朝と表外漢字字体表の「瓦」字形比較.jpg
上図の左側4文字は標準の平成明朝,右が表外漢字字体表の例示文字である。意識的に瓦の字形を変えたことがわかる。標準の平成明朝においても全字形の瓦は曲げハネであるが,他の,旁に用いる瓦の字形はカギハネになっている。もちろん曲げハネとカギハネの違いはデザイン差であり,書体ごとのコンセプトで決められる範囲であることは論を待つまでもない。
ただし標準の平成明朝においても,脚に使われる瓦字形は曲げハネとカギハネが混在し,統一されていない恨みがある(下図)。
平成明朝体の脚に使われる「瓦」.jpg


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2008年02月12日

その6:癶の字形について

表外漢字字体表字形は,部分字形「癶」の最終画右ハライを1画目転折部と離して起筆するものとした。

「橙」の字形比較.JPG
図は標準の平成明朝(左)と表外漢字字体表(右)の「橙」を並べたものであるが,標準の平成明朝体では最終画右ハライが1画目転折部から起筆されていることがわかる。しかし,このケースでは前回までに述べたこととは若干趣を異にする。標準の平成明朝体字形を詳らかに見てみると,部分字形「癶」のほとんどの最終画右ハライは独立して起筆され,1画目とは非接触なのである。いわば「橙」の字形が異端児ということになる。平成明朝体標準セット(JIS X 0208)の中で,部分字形「癶」を持つ他の文字のいくつかを次図に並べてみた。これらのすべてが「離れて」いることが見て取れるであろう。
部分字形「癶」を持つ平成明朝体文字の例.jpg
表外漢字表字形として,この部分の統一を図ったという意味では好ましい変更であったと言える。もちろん何度も指摘してているように,これらの「付く・離れる」はデザイン差であるから,表外漢字表の字形にとらわれることなく,「橙」の癶を「付ける」字形にしても何ら問題はない。

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2008年02月04日

その5:黽の字形について

次図は,上が標準の平成明朝,下が字形変更された表外漢字表用の平成明朝である。

表外漢字の黽の字形.jpg
「黽」の中央右側の縦画を下まで伸ばしていることが分る。どちらが正しいのか。伸ばす意味は何なのか。このケースでも理由は明確とは言えない。
「黽」は蛙を意味する象形文字と言われる。この文字の説文小篆では二つの縦線は接触しているが,これが部分字形になっている文字の中には説文小篆でも離れているものもあり,また楷書の筆法においては右を「日」のように書くものも多く見られ,接触の可否などはまったく問題視されるべき箇所ではない。
なお,筆者個人としては下まで伸ばす字形がよいと思っていることを付け加えておく。

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2008年01月31日

その4:部分字形「辰」について

四番目は「辰」である。
図を見ていただく方が理解が早いであろう。図で,上が平成明朝体の標準セットの字形,下が表外漢字字体表に用いられた平成明朝体の字形である。

表外漢字表における部分字形「辰」の字形.jpg
部分字形「辰」は,冠脚・偏旁に用いられるが,表外漢字字体表の例字字形としては,辰の3画目起筆位置を,
  • 冠脚に来る場合には2画目左ハライから離す
  • 偏旁(実際には旁)に来る場合には2画目左ハライに付ける
という統一を図った。そのために「蜃」の字形を変えたのである。
この基準は,常用漢字表例字字形として用いられている大蔵省印刷局書体も同様である。この基準を援用したのであろうか。
しかしもともと書体が違えば,この程度の「付く/離れる」は変わって当然である。平成明朝体のデザインは,かならずしもこのようなデザインルールは持っていない。それにも関わらず変更した。
この変更によって常用漢字・表外漢字の両方にわたっての統一的デザインが採用されたことは悪いことではない。しかし平成明朝体として統一されたわけではなく,たとえば「振」,「娠」では離し,「震」では付けており,常用漢字表例字字形とは逆である。
こうしてみると,表外漢字字体表におけるデザイン統一の意義とは何か,ということについての疑問が残る。
ちなみに「辰」の字形について,説文では複雑な説明をしていて,3,4画目の「二」は「上」の古字だと説くが,白川説によれば,「辰」は貝が足を出して動くさまを表わすものという。いずれにせよ,明朝体の辰における3画目の付く/離れるは大勢に影響を与えるものではなく単なるデザイン上のことである。

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2008年01月24日

その3:部分字形「盾」について

三番目の問題は部分字形「盾」である。
平成明朝体は,この部分字形のすべてで4画目を若干傾斜させている。垂直にするか傾斜させるかは,明朝体デザインの問題であって字体に影響を与えるものではなく,もちろん正誤の問題でもない。

平成明朝体と表外漢字の部分字形「盾」.JPG
しかし表外漢字字体表例字字形は,あえて垂直に変更した(右図)。図の左が標準の平成明朝体の字形,右が表外漢字字体表で変更された字形である(「遁」のシンニョウは字体の問題であるから,ここでは不問)。常用漢字「盾」,「循」は,常用漢字表の例字字形では垂直だが,それを意識したわけではないはずで,なぜ変更したのかはわからない。書体が変われば,このデザインも変わりうる。「印刷標準字体」としてのシバリをうけることもない。常識的に判断していきたいものだ。

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2008年01月17日

その2:「久」の字形

次は部分字形「久」である。
表外漢字字体表では,平成明朝体本来の字形をいくつか変えているが,部分字形「久」もその一つである。次図は,上が本来の平成明朝,下が修正の上で表外漢字表例字字形として採用された文字字形である。部分字形「久」の3画目起筆位置が下がっていることがわかる。

「久」を部分字形に持つ表外漢字.JPG
この差は字体差ではなく,単なるデザイン差である。それにも関わらず「あえて」手を入れて変更したわけだが,その理由は何であろうか。常用漢字表の「久」は3画目起筆位置が下がっているが,これが理由とは考えにくい。
実は表外漢字には「久」を部分字形に持つ文字にはもう一字あるのだが,これは本来の平成明朝も3画目起筆位置が下がっているので変更していない。このことは平成書体にもユレがあることの証しともとれるが,これは「柩」で,変更対象の2字が冠に使われているのに対して,この文字は旁に使われており,これだけを見る限りユレとは言えない。
たとえば「人」をみてみよう。全字形の「人」や冠に来る場合の「人」は2画目の起筆は1画目起筆位置と同じデザインがほとんどである。しかし偏旁に来る場合は2画目起筆位置は下がる場合が多い。これと同じ思想と言えなくもないのである。
次に示す「久」は,左からヒラギノ,平成明朝,リューミン,MS明朝である。MS明朝は微妙だが,平成明朝,リューミンは上から,ヒラギノは少し下がったところからの起筆である。前述のように,これらの差はデザイン差であって,書体によってこのような差が生じるのは自然の成り行きである。
「久」4書体.JPG
ところが,そのような解釈に水を差す現実もある。次図は戸籍統一文字と住基統一文字から採ったものである。
戸籍・住基の「久」.JPG
戸籍統一文字は右の字形で,戸籍統一文字番号001460であるが,この文字は住基コードC0E1でもある。一方,左の文字は住基コード4E45である。つまり住民基本台帳上では,これらを有意な差として別コードを振っているわけである。書体が違えば違う字形を別ものとしてしまっている。しかも表外漢字字体表の部分字形「久」を恣意的に変更したことは,さらにこの差はこだわらなければならないという,間違った解釈を生み出すことにつながる虞がある。新たな混乱の元をつくってしまったということである。
ちなみに,表外漢字字体表で変更された「粂」も「灸」も,住民基本台帳ネットワーク文字では2種類とも存在する。混乱は根深いのである。

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2008年01月08日

その1:筆押さえの有無について

まず最初に「筆押さえ」を取り上げる。
表外漢字字体表の例字字形では,平成明朝体にあった筆押さえがすべて取り去られた。表外漢字1,022字の中から,オリジナルの平成明朝に筆押さえがある文字と表外漢字字体表の文字を並べて比較してみよう(下図)。
筆押さえの有無.JPG
筆押さえの有無については常用漢字表でデザイン差と明記しており,表外漢字表においても常用漢字表の考え方を基本的に踏襲して同様の解釈をしている。表外漢字字体表(印刷標準字体)は字体を規定したものであるから,デザイン差レベルの字形変更の意味があるとは思えない。
とくに表外漢字字体表制定にあたっては文化庁の『明朝体活字一覧』を参照しているのであるが,ここに収載された活字でしかるべき箇所に筆押さえがない文字はほとんどないはずだ。それにも関わらず恣意的に筆押さえを排除した。なぜであろうか。かなり想像を逞しくしてみたものの真意は謎である。むしろ他の方針との矛盾さえ感じられる。
もともと,筆押さえというのは明朝体を特徴付ける装飾である。明朝体らしさを演出する飾りと言っても過言ではない。しかし,もちろんこの装飾は明朝体という書体の発生とともに出てきたものではない。そもそも明朝体がいつ完成したのかも定かではない。しかし宋版の木版で彫られた文字がベースになっていることはたしかである。その宋版は楷書を下敷きにしている。次図は顔真卿の楷書であるが,筆押さえの萌芽がすでに見られることがわかる。

顔真卿の楷書.JPG

墨子の文・公.JPG
右図は明代(1553)に刊行された『墨子』から採ったものであるが,筆押さえや八屋根の片鱗を窺い知ることができる。
こうして,文字としての字形バランスやメリハリをつける効果もあって,筆押さえは明朝体活字にはなくてはならない要素になった。もちろん,これは活字の世界の話であって,筆写の文字への適用を促されたことは一度もない。
明朝体活字の筆押さえが否定されたのは当用漢字字体表の制定によるものである。当用漢字の字形は,活字と筆写の文字字形を近づけるという明確な意思が反映されたものだ。以下に当用漢字字体表の最初の部分を示す。「丈」,「交」など,いままで明朝体にはかならず付いていた筆押さえがない。これは,筆写においては,このような装飾は施されないからである。しかし,これはあくまでも当用漢字の範囲のことであって,表外漢字については何らのシバリも与えられなかった。

当用漢字表抜粋.JPG

当用漢字は制限色の強いものであったから,この字体表に基づく新しい明朝体字形が登場した。ここに至って筆押さえのない明朝体活字がつくられたわけである。しかし,上述のように表外字については,このような変更をする必要はなかった。
当用漢字表は常用漢字表に引き継がれるが,ここで制限色は影を潜め,「目安」にトーンダウンした。そして,前述のように筆押さえの有無は活字設計上のデザイン差に過ぎないものという解釈が与えられたのである。この解釈を厳密に受け止めれば,当用漢字時代は「厳禁」の筆押さえは常用漢字字体となって解禁になったということである。しかし,常用漢字表の例字字形が「筆押さえなし」に揃えたからか,その後(常用漢字において)筆押さえを復活させた明朝体は現れていない。
この理由は単純かもしれない。つまり,どっちでもよいのだから当用漢字時代につくった活字をそのまま活かした,というだけのこととも考えられる。常用漢字表例字字形に採用した大蔵省印刷局の明朝体も,当用漢字のものをそのまま使ったということであろう。
しかし,くどいようだが表外漢字字体表では意図的に筆押さえを取った。当用漢字で指向した,
  • 漢字の読み書きを平易にし正確にすることをめやすとして選定し
  • 筆写の習慣、学習の難易をも考慮し
  • 印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることをたてまえとした
という考え方は,少なくとも表外漢字字体表では否定された。それならば,筆押さえを取って明朝体らしさを犠牲にするほどのこともなかったはずだ。
最後に,筆押さえはほんとうにデザイン差と断定してしまってよいのだろうか,ということについて一言触れておきたい。
「新字源」と「常用字解」の交.JPG
左に示すのは『新字源』(左)と『常用字解』(右)における「交」の部の表記であるが,これらの漢和辞典では筆押さえの有無を新字体/旧字体の差,つまり字体差と位置づけている。実は,これはひとつの見解である。当用漢字字体表の公布によって新たな字体が制定されたと見れば,これを新字体と呼んでよい。それに対して,それまでの字体を旧字体と呼称することも可能である。こうして,先のふたつの辞典では八屋根の有無も新旧字体差としている。この考え方からすれば表外字は新旧の差などあり得ないから筆押さえがあっても何ら問題がないばかりか,「筆押さえなし」の字形をつくることによって新たな字体を創出してしまったと言えなくもない。こうした大きな問題を含むにも関わらず,この変更に対して何の説明もないのは気になるところである。

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2008年01月05日

表外漢字字体表における字形変更

前回,表外漢字字体表で字形を変更した例をニ,三,指摘した。ここではその全体を俯瞰しておきたい。
順不同であるが,デザイン差レベルで平成明朝体が変更された項目を以下に示す。

  • 筆押さえは付けない。
  • 部分字形「久」の最終画を2画目転折部よりやや下から起筆する。
  • 部分字形「盾」の4画目を垂直とする。
  • 部分字形「辰」の3画目は
    • 冠または脚に来る場合は左のタレと非接触
    • 偏旁に来る場合には接触
  • 部分字形「黽」の中央右側の縦画収筆部を最下端横画に接触させる。
  • 部分字形「癶」の右ハライ起筆部を1画目に接触させない。
  • 部分字形「非」の4画目は1画目の右に出す。
  • 部分字形「瓦」が脚に来る場合は4画目を曲げハネにする。
筆押さえの有無をデザイン差と呼べるかどうかは議論のあるところであろう。また上記以外にも字形を変えたものもあり,さらに上記変更内容についても説明を要するものもある。そこで次回から個々に解説を試みることにする。

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2008年01月01日

ふたたび「非」の字形問題

新年明けましておめでとうございます。
今回で78回目を数えます,いよいよ明朝体考現学の話題も佳境に入っていきますので,本年もよろしくお付き合いください。



さて,
すでに「非」の字形について二回ほど取り上げた。いわゆる4画目の「出る・出ない」問題である。この差がデザイン差であることは常用漢字表の解説にも明記されている。
510190071.jpg
そして,表外漢字字体表の「参考」の中の「表外漢字における字体の違いとデザインの違い」で,常用漢字表のこの箇所を再掲した上で「表外漢字における該当例」で,“誹”を例に挙げ,4画目の「出る・出ない」はデザイン差であるとしている。
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つまり常用漢字であろうと表外字であろうと,この差はデザイン差だと明確に規定しているのである。
デザイン差というのは,たとえば書体が変われば揺れるものだということである。同じ明朝体であってもA明朝体は「出している」が,B明朝体が「出さない」ということはあり得る。しかしその差はデザイン差であるからは同じ文字と看做して差し支えない。
%E8%AA%B9.JPG
ところで表外漢字字体表の例字書体には平成明朝体が用いられている。平成明朝体の標準文字セットでは部分字形「非」の4画目は右に出していない。これはひとつのデザイン・コンセプトと言えるであろう。ところが表外漢字字体表の例字は,平成明朝体を用いながら敢えて「出す」デザインに改めた。しかも,その理由については何ら語られていない。
それでは,このように敢えて本来の平成明朝体デザインを変えて採用した文字はないだろうか。それが,けっこうあるのである。
  • 廴(えんにょう)の筆押さえが取られた。
  • 「久」の3画目起筆位置がわずかに下げられた。
  • 部分字形「盾」のやや右に倒れた3画目縦画を垂直に直された。
などなど,なぜ,そういうデザイン変更をしなければならないかがまったくわからない変更が加えられているのである。

平成明朝体は,日本規格協会の「文字フォント開発・普及センター」で開発されたものである。これはコンペによって選ばれ,90年JISの例字字形として採用するために字形デザインの細部にわたってかなり詳細な検討がなされて完成されたものである。20年ほどの前のことである。
私は文字フォント開発・普及センター内で,最初にコンペWGに属し仕様を検討した。次いで字形WGで90年JISの字形仕様決定に携わった。そしていま,経済省のプロジェクトである「汎用電子情報交換環境整備プログラム」の文字グリフ委員会でデザイン統一基準づくりをしている。このプロジェクトでも平成明朝体で新規グリフを開発しているのである。
つまり,平成明朝体が生まれてからずっと何らかの形でこの書体に関わってきたので,少なくともこの書体のデザインコンセプトは熟知しているつもりである。
そういう立場から見ても,この表外漢字字体表の例字字形デザイン改訂は不思議なものといわざるを得ない。
この内容については,次回でさらに分析する。

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2007年12月29日

まず「常用漢字表」の解説を検証する

これから何回かにわたって『表記外漢字字体表』における字体差/デザイン差を論じようと思う。もちろん,もとよりこの字体表の存在意義自体を批判したり否定するつもりはまったくないが,この字体表の例字字形と,この字体表の解説については大きな問題を感じざるを得ない。そして,この問題が日本の漢字行政にも少なからぬ影を落としていると考えるのである。
この「問題」を論ずる前に『常用漢字表』について指摘しておかなければならないことがある。常用漢字表には「(付)字体についての解説」という項があるが,この中の「第一 明朝体デザインについて」では,

常用漢字表では,個々の漢字の字体(文字の骨組み)を,明朝体活字の一種を例に用いて示した。現在,一般に使用されている各種の明朝体活字(写真植字を含む)には,同じ字でありながら,微細なところで形の相違の見られるものがある。しかし,それらの相違は,いずれも活字設計上の差,すなわち,デザインの違いに属する事柄であって,字体の違いではないと考えられるものである。つまり,それらの相違は,字体の上からは全く問題にする必要のないものである。以下,分類して例を示す。
と述べた上で,例を示している(上記引用文アンダーラインは筆者)。
上記引用文の文面からは,
  微細な差であれば,それは字体差ではなくデザイン差である。
と解釈できるのだが,それはほんとうであろうか。
常用漢字表においては,「微細な差」の定義は具体的かつ定量的にはまったくなされていない。たとえば,例の“2(1)長短に関する例”として「雪」,「満」,「無」,「斎」が挙げられているが,この例は「長短が字体差にならない文字」を選択表記しているだけである(下図)。
  常用漢字表「雪,満,無,斎」.jpg
右図を見ていただきたい。
士・土・吉・樹.JPG
当然ながら「土・士」は字体差どころか別字である。それでは「吉」の場合は字体差かデザイン差か。さらに,「樹」における部分字形「土・士」の差はどうか。ちなみに,この「樹」5種類のうち,最後が常用字体表の例字字形である。他は漢和辞典から採っている。
これらの長さの違いのどこまでが「微細」で,どこからが「微細とは言えない」のかという線引きは,まったくどこにも定義されていない。
その他にも,「つけるか,はなすかに関する例」,「接触の位置に関する例」についていくつかの字例が挙げられている。しかし,それならば「己・已・巳」などは微々たる差か。
さらに「交わるか,交わらないかに関する例」も挙げられているが,「由・申・甲・田」はどうか。
また「はねるか,とめるかに関する例」として「四」,「配」,「換」,「湾」が挙げられているが,「木」は入っていない。「第2 明朝体活字と筆写の楷書との関係について」では「木」が対象になっている。つまり,筆写の楷書では木の二画目収筆をはねようとはねまいと関係ないことを示しているものの,明朝体活字においては,このハネの有無は微細な差とすることはできないということなのであろう。しかし,そういうことについて,それ以上のことは述べられていない。
要するに常用漢字表の「微細な差」の定義は,いくらでも恣意的に判断し得る曖昧さを有していると言えるのである。そして表外漢字字体表においては,「字体の違い」と「デザインの違い」との関係を,常用漢字表に示されている考え方を基本的に踏襲する,としている。「曖昧さ」を踏襲すると断言しているようなものであるから,表外漢字字体表の表現も推して知るべし,だ。詳細は次回以降に。

【追記】
たぶん,この稿が今年最後になると思います。ご訪問,まことにありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。よいお年を。

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