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2008年07月08日 …【明朝体デザインの「キモ」とは】

明朝体デザインの今後(6)

シカバネの形について,篆書→隷書→楷書→明朝体という変遷の中で,おのずから字形も変わっていくのに,たとえば隷書の筆法をそのまま明朝体に再現するような選択をしてはならないことを述べた。これに対して,々々さんからコメントをいただいたこともあり,少し補足しておきたい。

この種の明朝体字形は,実際にもかなり存在する。文字鏡フォントの「尸」を見ても,かなりの数が確認できる。第1図はその中のほんの一部の,「居」とこれを部分字形に持つ文字の例である。
これらは,ほとんど隷書や古い時代の楷書に引きずられた結果の字形であろうと考えたいところであるが,結論を出す前に諸橋『大漢和辞典』を見ておくことにする。ここでは「尸」が左上が開いている字形の俗字とされており,その根拠を『正字通』に求めている(第2図)。
このあたりに篆書字形を正字とする思想が垣間見られるように思われる。
篆書→隷書→楷書という変遷の過程で,多くの漢字字形は「説文解字」の小篆字形とは少なからず趣を異にしていった。かくして,楷書の完成時には小篆体とは大きく変貌を遂げたのだが,それこそがひとつの文字の歴史でもある。
したがって『干禄字書』が編纂された頃には,いまの楷書の字形が定着していた(第3図)。それを元に戻そうという動きの一つが『康煕字典』の編纂であったということもできる。したがって康煕字典を金科玉条としている日本においては『大漢和辞典』の解釈が根底に流れているといえるのかもしれない。
その顕著な解釈の例が三省堂『新明解漢和辞典』であり,シカバネを部首とするほとんどの文字に対して,親字としては掲げていないものの正字が左上が開いている字形であることを説いている(第4図)。ただ,他の代表的漢和辞典に,この字形を挙げているものはほとんどない。
しかし々々さんも指摘されているように,築地三号にみられるように左上が開いている字形のシカバネが活字において存在した。ところが,この間の問題を調べていて,戦前の文部省活字を見ると,シカバネは左上が開いている字形になっているのである(第5図)。一筋縄ではいかないことがよくわかる。
すべては『説文解字』の小篆字形と楷書の字形との乖離に対する解釈上の問題である。ただ,JISや戸籍・住基統一文字の中に(全字形の左上が開いているシカバネ以外は)ないのが,せめてもの幸いといってよいであろう。


【注記】 
この文章にケアレスミスがありました。「左上が開いている」としなければならないところ,「右が開いている」と誤記しました。ゆたんぽんさんからのご指摘で気がつき,当該部分を訂正しました。ゆたんぽんさん,ありがとうございました。(7月9日)

posted by gen : 2008年07月08日 22:12

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Comments

この部首の左上が空いている形を「右が開いている字形」というんですか?
難しいですね、私にはよく判りません…。

posted by ゆたんぽん : 2008年07月09日 12:02

ご指摘をありがとうございました。
「右」→「左」のミスです。すぐに修正させていただきます。

posted by GEN : 2008年07月09日 12:13

『書道大字典』をみると、左上の離れた尸は楷書でもかなり見られるようです。

文部省活字も一種の楷書ですが、尸部の字ばかりでなく「堀」「握」、さらには国字の「塀」の尸まで左上が開いています。

なお、『正字通』は離れた字でそろえているようです。『正字通』という字書そのものが書名が指し示すように、『説文』の小篆ゴリゴリの正字志向の強い字書ですが。

posted by 々々 : 2008年07月11日 12:53

コメントをありがとうございました。
今までにもよく引用させていただいている二玄社の『大書源』でも,左上が離れた尸が多くみられるのですが,傾向としては比較的古いものに多く,新しい書では少ないように思われました。
一方,隷書体では清代の作品などになると,逆に「閉じた」尸が多いように見受けられます。
けっきょく,「時代」が影響しているということでしょう。

> 文部省活字も一種の楷書ですが、

仰るような傾向がありますね。
これは,いわば現在の教科書体のルーツのような位置付けの書体ですが,なぜ左上が開いた字形にしているのかはよくわかりません。もしご存知でしたらご教授ください。

posted by GEN : 2008年07月12日 16:31

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