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2008年03月26日 …【明朝体デザインの「キモ」とは】

正しい漢字の表現(3)

前回,明朝体デザインの構造を概観する図を示した。そこでまず重要な要件が「正確な構造表現」であることを述べたが,これらについて,もう少し掘り下げて考えていきたい。
図の右側に「環境条件」という機能項目を記した。今回は正確な構造表現とは何かを環境条件からみていくことにする。
環境条件とは何か。たくさんあるのだが,今回はフォントデザインと使用文字サイズについて検討する。現在のフォント環境は,理論的にはどんな文字サイズでも実現できる。しかし極小から極大まで利用可能な文字のデザインなど存在しない。かならず最適範囲というものがあるはずである。それにも関わらず,不思議なことに使用推奨サイズを明記したフォントは,ほとんどないのである。使用者の責任で判断せよ,と言いたいのかもしれないが,「こういうコンセプトでデザインし,どのぐらいの文字サイズに適している」といった程度のことはデザイナとしての最低限の開示義務に当たるのではないか。

「じょうずなワニのつかまえ方」.jpg
もちろん,フォントと文字サイズとの関係は単純ではない。表示メディアによっても異なるから,一般則としてではなくユースケースとしてでもかまわない。いずれにしても何らかの指針があってよい。フォントに関するユニバーサルデザインのもっとも基本的な視点が,ここにあるものと思う。
主婦の友社から『じょうずなワニのつかまえ方』という面白い本が出たのは1986年であったが,刊行直後からフォントの関係者の間で話題になった。内容によってではなく,本文が,あたかも書体見本帳のように多彩な書体を使って組まれており,しかも書体名まで表示されていたからである。
しかし,である。その組版の可読性が極めて悪いものが多いのである。編集者が書体の使い方もわからずに制作したのではもちろんなく,何らかの意図に基づいて組んだのであろうことは想像に難くない。しかし,このような書体の使い方と組み方をした真の理由は存じていない。
使用している紙質があまよくないので,細明朝体でも8Qぐらいの文字サイズでは読みづらいし,大サイズで広告のキャッチコピーに使うような書体を本文に使って,完全につぶれてしまっている組版もある。
以下に3点ほどを掲げるが,「読みにくさの見本」のようである。仮名漢字混じり文の場合,漢字を少し大きくしたり黒味を強くすることで可読性を高めることができる。もっとも簡単な方法は,漢字にゴシック体を用い,仮名に明朝体を使用することであるが,ここに掲げた組版は,漢字を細明朝,仮名をゴシックで組んでいたり(「救命帯をつける方法」),漢字に使用したゴシック系書体も特太の装飾書体を使ったために,かえって読みにくくしてしまっている(「石を磨く方法」)。仮名書体に特太のアウトライン書体を使っているものも,可読性(視認性ではない)の確保という観点からはマイナスである(「卵の立て方」)。
救命帯をつける方法

石を磨く方法.jpg

卵の立て方.jpg

苦労して読ませることで印象を強める,というテクニックもあるから一概には言えないが,まっとうな使い方でないことだけはたしかである。この『じょうずなワニのつかまえ方』を失礼ながら反面教師としてみることで,最適(または推奨)文字サイズとは何かを学ぶことができる。
書体設計上の基本仕様の一つが字面率であるが,これをどのぐらいの数値にするかは,どの範囲の文字サイズで使用するかで変わってくる。仮想ボディと字面の隙間は,いわば額縁の幅だと思っていただければよい。この幅は使用サイズに比例して実寸が大きくなるから,同じ字面率の書体でも大サイズで使用すればベタ組みでもパラついて見えるので大サイズで用いる書体の字面率は大きく(つまり額縁の幅を細く)設計するわけである。
こうしたことからも,書体ごとに最適(推奨)文字サイズというものが存在すると断言できる。

posted by gen : 2008年03月26日 22:59

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