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2008年01月08日
…【表外漢字字体表の「字形問題」】
その1:筆押さえの有無について
まず最初に「筆押さえ」を取り上げる。
表外漢字字体表の例字字形では,平成明朝体にあった筆押さえがすべて取り去られた。表外漢字1,022字の中から,オリジナルの平成明朝に筆押さえがある文字と表外漢字字体表の文字を並べて比較してみよう(下図)。
筆押さえの有無については常用漢字表でデザイン差と明記しており,表外漢字表においても常用漢字表の考え方を基本的に踏襲して同様の解釈をしている。表外漢字字体表(印刷標準字体)は字体を規定したものであるから,デザイン差レベルの字形変更の意味があるとは思えない。
とくに表外漢字字体表制定にあたっては文化庁の『明朝体活字一覧』を参照しているのであるが,ここに収載された活字でしかるべき箇所に筆押さえがない文字はほとんどないはずだ。それにも関わらず恣意的に筆押さえを排除した。なぜであろうか。かなり想像を逞しくしてみたものの真意は謎である。むしろ他の方針との矛盾さえ感じられる。
もともと,筆押さえというのは明朝体を特徴付ける装飾である。明朝体らしさを演出する飾りと言っても過言ではない。しかし,もちろんこの装飾は明朝体という書体の発生とともに出てきたものではない。そもそも明朝体がいつ完成したのかも定かではない。しかし宋版の木版で彫られた文字がベースになっていることはたしかである。その宋版は楷書を下敷きにしている。次図は顔真卿の楷書であるが,筆押さえの萌芽がすでに見られることがわかる。
こうして,文字としての字形バランスやメリハリをつける効果もあって,筆押さえは明朝体活字にはなくてはならない要素になった。もちろん,これは活字の世界の話であって,筆写の文字への適用を促されたことは一度もない。
明朝体活字の筆押さえが否定されたのは当用漢字字体表の制定によるものである。当用漢字の字形は,活字と筆写の文字字形を近づけるという明確な意思が反映されたものだ。以下に当用漢字字体表の最初の部分を示す。「丈」,「交」など,いままで明朝体にはかならず付いていた筆押さえがない。これは,筆写においては,このような装飾は施されないからである。しかし,これはあくまでも当用漢字の範囲のことであって,表外漢字については何らのシバリも与えられなかった。
当用漢字は制限色の強いものであったから,この字体表に基づく新しい明朝体字形が登場した。ここに至って筆押さえのない明朝体活字がつくられたわけである。しかし,上述のように表外字については,このような変更をする必要はなかった。
当用漢字表は常用漢字表に引き継がれるが,ここで制限色は影を潜め,「目安」にトーンダウンした。そして,前述のように筆押さえの有無は活字設計上のデザイン差に過ぎないものという解釈が与えられたのである。この解釈を厳密に受け止めれば,当用漢字時代は「厳禁」の筆押さえは常用漢字字体となって解禁になったということである。しかし,常用漢字表の例字字形が「筆押さえなし」に揃えたからか,その後(常用漢字において)筆押さえを復活させた明朝体は現れていない。
この理由は単純かもしれない。つまり,どっちでもよいのだから当用漢字時代につくった活字をそのまま活かした,というだけのこととも考えられる。常用漢字表例字字形に採用した大蔵省印刷局の明朝体も,当用漢字のものをそのまま使ったということであろう。
しかし,くどいようだが表外漢字字体表では意図的に筆押さえを取った。当用漢字で指向した,
- 漢字の読み書きを平易にし正確にすることをめやすとして選定し
- 筆写の習慣、学習の難易をも考慮し
- 印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることをたてまえとした
最後に,筆押さえはほんとうにデザイン差と断定してしまってよいのだろうか,ということについて一言触れておきたい。
posted by gen : 2008年01月08日 20:40
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