« 上下逆さの文字 | Main | 異体字生成の法則はあるか »

2007年10月22日 …【漢和辞典の字形を「斬る」】

上下逆さ字形の文字に関する補足

上下が逆さになった字形を持つ文字について述べた。明朝体にしてしまうと,どういう筆法かが読み取れない。いままで何回も述べてきたように,現在の日本における規範書体が明朝体である以上,漢和辞典は明朝体で親字を表記せざるを得ず,したがって特段の説明がないかぎり辞典から筆法を知ることはできない。このことについても前回記したとおりである。
漢字を知るための辞典として漢和辞典があるのだとしたら,こうしたことも問題視しなければならない。どうも現今の漢和辞典でさえ,明治期の目的をそのまま無批判に踏襲しているように思われてならないのであるが,これは要するに出版社の努力不足なのではないか,という問題提起でもある。

大漢和11673の隷書体.JPG
さて,それはさておき(この問題は,別途詳細に論ずる予定なので)上下が逆さになった字形は,いったいどのように書くのだろうという疑問に関する補足をしておきたい。「苦しいときの『大書源』頼み」というわけではないが,同書をめくっていて大漢和11673の文字が収載されているのを見つけた。左図がそれである。この出典は明らかではないが,これをみると紙を逆さにして脚部を書いている。たしかにそうでもしなければ形が整わないであろう。このことは,(もしほんとうに,そのように書いているとすれば)明朝体の字形デザインもあながちおかしいとは言えないことになる。
「予」と「逆さ予」の篆書体.JPG
しかしもうひとつ,大漢和234の文字(「予」の逆さ字)に関してはかならずしもそうとは言えないようにも思う。この文字は「幻」と同じで,『字通』の「幻」の項にも「予の倒文」とある。もっとも,この説明は『説文解字』に載っているものだが,白川静はやわらかく説文の解釈(の一部)を否定した上で,「予」について,「織物の横糸を通す杼(ひ)の形」と説明する。小篆の「予」で,下に長くたれているのが糸を表わすという。そういう意味では「逆さの予」は,むしろ幺の字形に近くデザインされてしかるべきものかもしれない。
そもそも「予の倒文」と説明された時点で明朝体は存在せず,小篆に関して言えば,まさしく上下逆文字の関係であったことがよくわかるし,筆法に矛盾はない。上図は説文篆文である(これらも『大書源』から転載)。
けっきょくのところ,「予」の明朝体がつくられ,一方,その倒文ということで明朝体の予をそのままひっくり返すだけという安易なやり方に問題の真因があったのてはないかと思う。

posted by gen : 2007年10月22日 21:58

Trackbacks

http://www.nagamura.jp/moji/minchou/mt-tb.cgi/72

Comments

Add a new comment




 
Powered by Movable Type 3.3-ja
Copyright (C) 2006 g-hit.com. All Rights Reserved.