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2007年09月06日
…【漢和辞典の字形を「斬る」】
不思議なカクシガマエ
伝統的な部首の中にハコガマエ(匚)とカクシガマエ(匸)がある。もともとはまったく別モノなのであるが,新字体・旧字体の差の指標にしている辞典もあり,字形解釈上も気をつけなければならない。

左図を見ていただきたい。これはお馴染みの「区」の新字体と旧字体であるが,新字体(検字番号898)がハコガマエであることは当然として,旧字体(検字番号897)のカクシガマエが一種独特なのである。カクシガマエの2画目転折以降が横画になって収筆部にはウロコまで付いている。まさにハコガマエとカクシガマエを足して二で割った感じの字形である。他の辞典ではほとんど現れない形だ。私はこれに「ウロコ付きカクシガマエ」と命名している。
文化庁の『明朝体活字字形一覧』には,「区」の旧字体として,モリソンの『五車韻府』(最初の華英辞典。1815年刊)から採ったものに,このウロコ付きカクシガマエに似たカマエがあるが,まさか,この時代の字形を踏襲しているとは思えないし,踏襲する意味もない。
ちなみに「区」はハコガマエで新字体,この旧字体は「品」にカクシガマエということであったが,たとえば戦前の啓成社版『大辞典』では,「品」にハコガマエが正字で,「メ」にカクシガマエが俗字とされている。このあたりの解釈は辞典によってかならずしも同じではない。
同じような例はまだまだある。それらをすべて挙げることはしないが,たとえば検字番号2319,同10448なども確認してみていただきたい。
つぎに下図に示す文字をみてみよう。これらも「一種独特」のカクシガマエである。
いずれにしても,このどっちつかずのカクシガマエは他にはほとんど見られない字形である。たいへん紛らわしいし,混乱の元になりかねない。
最後に『大字源』の「匚」と「匸」の解説を『大字源』から転載しておく。
posted by gen : 2007年09月06日 21:42
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Comments
「なぜ検字番号7355の字形に統一できないのであろうか。」(7236?)
とおっしゃいますが、これは単に、活字父型を彫った職人が別だから、またはおなじ職人でも彫った時期がちがうから、こんな理由ではないでしょうか。
製品として出荷したあとから不統一に気がついても、彫りなおす(それも各号すべて)なんてことはしないでしょう。
posted by 和田 徹 : 2007年09月08日 09:24
和田さま,コメントをありがとうございました。
また,検字番号の記載ミスに対するご指摘にも感謝いたします。検字番号については早速見え消しで修正させていただきました。
ところで,ご指摘の趣旨は活字を前提とされていますが『大字源』は1992年2月の初版で活字組版ではなくCTS(デジタルフォント)で組版されたものです。
活字の父型彫り師にしてもデジタルフォントのデザイナにしても自分の美意識があり,他のデザイナがつくった字形とは違った形につくることはありえます。このデザイン自由度を,私は「字形デザインの恣意性」と呼んでいますが,これには自ずからシバリが存在します。勝手な「美意識」は通用しません。とくに漢和辞典の親字の字形デザインには,それなりの字形の規範が要求されることは当然です。
ご承知のように,とくに戸籍行政では代表的な漢和辞典の字形をそのまま容認する姿勢ですから,一般書籍用の文字と同列に論じることはできません。規範文字として十分な説得力を持った字形でなければ世の中の漢字字形の混乱を助長してしまうことになります。
本論は,このスタンスで漢和辞典を「斬って」いることをご了承ください。
posted by GEN : 2007年09月09日 22:04
康煕字典では「甚」「椹」「糂」は検字番号4355のかたちです。
「なぜ検字番号4355の字形に統一できないのであろうか。」という人もいるでしょう。
康煕字典信奉者にはこちらのほうが「説得力」をもっているにちがいありません。
「文字としては、本来活字体の正書などあるべきではない。活字は一種の装飾字にすぎないものである。」
(白川静著『漢字百話』中公新書 p.236)
これ、とても私の気にいったことばです。
posted by 和田 徹 : 2007年09月10日 09:28
今回のコメントを拝見してご指摘の本質がわかりました。私のBLOGでの図版の処理が悪く,字形の細部がわかりにくかったのが原因のようです。
実は,『康煕字典』の「甚」「椹」「糂」は検字番号4355のかたちではなく,ハコガマエになっています。私が貼り付けた図版では,そこのところの細部がかならずしも明確に表示されていないために誤解されたものと思います。
検字番号4355は,私の言う「どっちつかずのカクシガマエ」の形なのです。この字形については,次回のBLOGで明確な図版を用意してご説明することにします。
なお,それは別として私もいまだに康煕字典信奉者の多いことに驚かされます。その道の専門家でさえ金科玉条として扱っているのです。これこそ問題だと思います。
それから白川静先生の言葉,共感します。先生が亡くなったときに,このBLOGでも取り上げさせていただきましたが,白川先生は私のもっとも敬愛する先生ですが,漢字学界ではなかなか理解されていないのが残念です。とても太刀打ちできないので「無視」を決め込んでいるのではないかとも感じていますが…
今月2日付の日本経済新聞「半歩遅れの読書術」というコラムに評論家の三浦雅士氏がつぎのように書いていました。
---(前略)
白川静が「道」の語源を異族の首を掲げて進む意であると解いて読者の度肝を抜いてから四十年近い。従来の学説をことごとく覆すその漢字学は多くの読者を魅了したが,学界では論じられること少ない。凄まじい迫力が学問よりはむしろ芸術を思わせるのだろう。
(後略)---
posted by GEN : 2007年09月10日 13:24