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2007年05月19日 …【明朝体の様式】

墨溜りの効用(4)

前回は,墨溜りやウロコの有無が明朝体の字形構造を特定するのに大きな役割を示すことを述べた。しかし明朝体は手書きの書体ではないから,起筆・収筆特有の形状表現が必須ということではない。構造が明確に(紛れがなく)表現されるのであれば墨溜りやウロコを省略することも可能である。「田」をみていただければ納得できよう。
明朝体の特徴のひとつに「三角のウロコを持つ」ということを挙げる向きもあるが,条件次第でウロコを省略することはいくらでもあることがわかる。
「曰(いわ)く」の場合には右の縦画に接しないのでウロコを付けるのが普通であるが,「日」の3画目の横画にウロコを付ける例は,いまではほとんどない。独立した横画であっても,たとえば常用漢字表の見出し文字の中でも「雨カンムリ」の中の4本の横画にはウロコはない。この場合の有無は,いわゆる「デザイン差」の範囲と考えて差し支えないものである。
こうしたことは墨溜りにおいてさらに顕著である。
「墨溜りの効用(1)」で“丁”の縦画起筆部に墨溜りを付けたものと付けないものを挙げた。横画の中央下にハネを持つ縦画が位置するという構造表現としては両者は同じであり,したがってこの差はデザイン差と看做せるのであるが,明らかに雰囲気は異なる。墨溜りなしは“丁”という字形そのもの(要素としてはひとつ)として感じられるが,墨溜りが付いたものは「一+亅」の組合せで構成されているという印象を与える。

王.JPG
右図は“王”であるが,左は平成明朝体の文字,右は縦画起筆部に墨溜りをつけたものである。墨溜り付き“丁”と同様,右の文字は「一+土」に見える。文字の成り立ちを考えれば,この文字については「墨溜りなし」の方が理にかなっているかもしれない。
『敝の画数について』において「たかが墨溜り,されど墨溜り」と書いたが,その持つ意味を理解していただけると思う。付けても付けなくてもよい墨溜り,付けた方がよい墨溜り,付けなければならない墨溜り,付けない方がよい墨溜り,……まさに多種多様なのである。そういうところにまで眼が行き届いたデザインこそ,よいデザインと言えるであろう。
もちろん「墨溜り付きの王」が好ましくないと言うことではない。その書体のデザインコンセプトに合致したものであれば十分に成立する。ちなみにつぎの明朝体は,すべての縦画起筆部に墨溜りを付けている。これもまた,ひとつの思想である。
朝日新聞の見出し明朝組版例.jpg
上のサムネイル画像をクリックしていただければ少しは大きく表示される。とくに「町」の構成要素である「田」と「丁」,「走」の4画目などに注目していただきたい。

posted by gen : 2007年05月19日 22:58

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