« 墨溜りの効用(2) | Main | 墨溜りの効用(4) »
2007年05月10日
…【明朝体の様式】
墨溜りの効用(3)
前回は明朝体の墨溜りとウロコが字形構造の正確な表現に大きく寄与していることを述べた。しかし現実のデザインには,これらの効用をあまり意識していないものが多い。
それでは,どうすべきか。
いろいろな明朝体をみると,ほとんどの「走ニョウ」の文字が,この部分に墨溜りをつけていないからである。しかし本来は洗練されたデザインの追及以前に「構造表現の正確さ」を追い求めるのが筋であろう。この部分をデザイナの恣意的な判断に委ねるのは危険と言わざるを得ない。
そこで,二三の例を挙げておきたい。
これらの文字は,右が平成明朝体,左は,あえて墨溜りを取ってしまったものである。書体によっては,この種のデザインをしているものも多い。画数が多い文字では「すっきり感」を出すために余分(?)な瘤などは付けたくないということかもしれないが,誤解を生むことにもなりかねない。「敝」や「市」で見たように,文字によっては墨溜りの有無で文字種が変わってしまうものもあるのである。
次の文字を見ていただきたい。
この例を敷衍すれば,たとえば部分字形「果」なども慎重に扱わなければならないかもしれない。「果」の中央縦画は上から下まで1本に貫かれているが,文字によっては「田+木」の組合せかもしれないからである。その場合は下図右のようにデザインすることになる。
posted by gen : 2007年05月10日 23:05
Trackbacks
http://www.nagamura.jp/moji/minchou/mt-tb.cgi/52
Comments
「虜」の旧字体ですが、「貫」の上部と同じようにこの部分を4画に計算します(左上-左下-右下の画を1画と数えるからです)。もし「力」とその上に連なる縦画を1画と数えるとすれば、総画数は11画になります。
posted by minmin : 2007年05月22日 16:06
minminさん,ご指摘をありがとうございました。
再読してみて,この箇所については前提を飛ばして書いてしまった結果,完全に誤解を生む表現になっていたことに気がつきました。
旁の「男」の中央横画が外に伸びた文字は「虜」の旧字ですが,これはご指摘のように「毌+力」ですから,本来は,この両方を合わせて6画です。
ここに示した字形は戸籍統一文字ですが,住基文字セット内の文字でもあります(例示した文字は,まったく同一ではありませんが)。戸籍統一文字の画数属性は12画,そして「力」の上に墨溜りがなく上と繋がっているようにしか見えない以上,「実際に繋がっている」と見るのが妥当ではないか。これが,「字形」からみた解釈になってしまうということを述べたかったわけです。
戸籍統一文字は「漢和辞典にあること」が条件となっています。当然のことながらほとんどの漢和辞典ではご指摘のような(力の2画目に墨溜りを持つ)字形構造にデザインされた文字が使われていますが,『大辞典』では13画となっていて,この場合の解釈は「田+力」となります。
漢和辞典の中でも非常にレアなケースとしては,私の知る限り旺文社の『漢和辞典』が12画で,明らかに左ハライは上から一本で貫かれた形になっています。
けっきょく,数ある漢和辞典の画数と字形表現の両方から解釈すると,最低でも3種類の構造が「罷り通っている」ことになるわけです。
…ということで,この種の問題を掘り下げるとかなり複雑ですので,この件については改めて項を立てて論じることにさせていただきたいと思います。
posted by GEN : 2007年05月22日 23:52