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2007年04月25日 …【明朝体の様式】

墨溜りの効用(2)

十字の形.JPG
墨溜りの効用について,基本に立ち返って考えてみたい。 右図は「十」の図形である。これを見ると,縦横,各一本の線が交差しているように見える。しかしほんとうはそうではないかもしれないのである。
つぎにいくつかのバリエーションを図示する。
十字の中身.jpg
このように一本ごとの線が他の線に接触せずに配置されていれば誤ることはないのであるが,実際の文字の場合には限られた空間に多くの線画を配置しなければならず,結果としてどうしても接触することが避けられない場合も多い。 上図の場合,一本の線は角が直角の長方形である。しかし実際に筆で書く場合,特に楷書では,いわゆる三折法,すなわち起筆,送筆,収筆それぞれの運筆(方向・強弱・早遅)で書く。明朝体もこの楷書の筆法を(いくぶんかは)踏襲しているから,書体にもよるが起筆,送筆,収筆に一定の図形的特長を持たせている。
伝統的な明朝体の例として,つぎにモリサワのリューミンの「十」を掲げる。
リューミンの十.jpg
横線の送筆部は細い直線であるが,縦線では緩やかなカーブを描いており,起筆から収筆に至る自然で滑らかな送筆を背勢処理でまとめているのがわかる。
横線の起筆は俗にラッパと呼ばれる打ち込みがあり,これも楷書の様式化のひとつである。ただし,さいきんの明朝体ではラッパを廃しているものも多い。解像度の低い表示環境では,かえってゴミに見えてしまうのを嫌うためである。
一方,横線の収筆は三角形の「ウロコ」で表現している。明朝体の定義のひとつとして「三角形のウロコを持つ」と言われるほど,この様式は定着している。後述するように,この存在が文字の骨格を正しく表現するのに大いに役立っているのである。
縦画の収筆については定まった形状様式はないといってよいが,直線処理か曲線処理かは別として,やや右上がりに終端をカットするのが普通のようである。曲線処理の場合には,最後をやや太めにして収筆の際の力を表現しているものが多い。
こうした「三折法」様式に当てはめて「十」のバリエーションをつくってみたのがつぎの図である。元字には平成明朝体W3を用いた。
明朝体十字のバリエーション例.jpg
この図形では,たぶんまったく紛れがない構造表現が実現できているはずである。つまり,明朝体の構造表現は「墨溜りの効用」,「ウロコの効用」などを含めたデザインの総合力が重要な鍵を握っている。単に「キレイ」だけで済まされる世界ではない。
なお,上図はあくまでも説明用に図形として作成したものであり,ある特定の漢字を示すものではないことを付記する。

posted by gen : 2007年04月25日 12:16

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