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2007年03月04日 …【明朝体の様式】

「臣」の字形について考える(1)

これからいくつかの文字を選んで字形と文字属性について考えてみたい。はじめに「臣」を取り上げる。

「臣」の筆順.jpg
この漢字は教育漢字のひとつであり,第四学年で履修する。筆順は右図の通りで画数は7画である(江守賢次『漢字筆順ハンドブック』三省堂)。ところが戦前はこれを6画に数えていた。それでは,「臣」字に画数違いを明示する字形的特長を持っているのであろうか。
新旧『大字典』の「臣」字形.JPG
左図は,戦前の『大字典』(啓成社版:左)と戦後の『新大字典』(講談社版:右)の「臣」を並べたものであるが字形としてはまったく同形である。すなわち画数違いは字形に反映されていないのである。
もうひとつの例を挙げる。次は『大字源』の部首見出し部であるが,部首「臣」は6画と7画の両方に載っている(この問題は別途検討する)。しかし,この両方の(画数が違う)「臣」に字形差はない。つまり画数差は字形に反映されていないのである。
「大字源」の臣.JPG
そこで前回の「明朝体様式」を思い起こしていただきたい。「口」と「区」の左下字形は同じであるが,前者は縦画の収筆と横画の起筆を表わし,後者は縦から横画への転折を表わすものであった。「臣」の左下は,まさにこの形である。7画の「臣」は一画目が左の縦画で最終画が下の横画であるから,縦画の収筆と横画の起筆を表わしたものであることがわかる。それならば6画の「臣」は縦から横画への転折を表わすものとして間違いないのであろうか。たぶん,そのように考えることができると思うが,多くの辞書ではその点に触れていないので推測する以外にない。それが明朝体様式の曖昧なところである。
漢和辞典では,明朝体字形表現の曖昧さを前提としていることをはっきり謳うべきであるにも関わらず,それを示しているものはほとんどない。わずかに,漢和辞典としてはユニークな配列を採用している三省堂『五十音引き漢和辞典』には,「親字の字体と画数について」において,
親字の字体は,見やすさの観点から太めの明朝体を用いた。明朝体は読むための活字としてデザインされたものであり,必ずしも見た目から正しい画数を導き出せるものではない。またトメやハネといった問題も,漢字デザイン上のこととして,筆写する際の参照にならない場合もあるので留意願いたい。それぞれの親字の画数と,部首および部首内画数は,親字の括弧の直下に掲げられているので参照されたい。
と述べて注意を喚起しているが,大切なことである。ただし「太めの明朝体を用い」ることがよいかどうかには若干の疑問もあるが,これについても別途論じたいと思う。。
6画の「臣」に戻る。この構造はどうなのかという問題であるが,先に述べたように漢和辞典でこれを明記しているものはみられない。そんな中で私の持っている漢和辞典のひとつに6画の「臣」の字形をカクシガマエと同形に表示している辞書がある。学研の『漢字源』改訂第四版では下図のように表記しているのである。
漢字源改訂第四版「臣」.jpg
つまり6画の「臣」ではカクシガマエと同様字形となっており,これはたしかに6画に違いない。しかし戦前の明朝体においてこのような字形につくるものは寡聞にして知らない。
宝文四号「臣」.JPG

文化庁『明朝体活字一覧』の「臣」字では宝文四号のみの字形が他と違っており,右図のようになっているのであるが,これはカクシガマエ形でもなく,明朝体様式としてもやや異質である。ただ,この字形を見ると6画であることと,その筆順は想像できる。この字形で思い出すのは現在の台湾字体である。
台湾字体「臣」.JPG
下図に示すが,この左下の字形処理は日本の漢字デザインにはないものであり,転折を表わしている。つまり台湾では「臣」が6画であることが字形だけからわかるのである。逆に言えば,日本ではこうした工夫の努力がなされていないともいえるかもしれない。

次回も「臣」について考える。

posted by gen : 2007年03月04日 14:46

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