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2007年01月28日
…【明朝体の様式】
楷書と明朝体(1)
明朝体は楷書を様式化したものか?
明朝体様式について考える。
宋版・元版から美華書館の金属活字による近代明朝体に至るまでは一本道ではない。この過程を分析することは重要であるが,これについては改めて別途行うこととし,現代の明朝体字形を通して「明朝体様式」とは何かを見ていくことにする。今回はこの第一回として,明朝体様式について考えることの意味を問うことにしたい。
明朝体は楷書を様式化した書体と言われる。しかし「様式化とは何か」が不問に付されたままの観念論に堕している傾向にはないのか。まず,こんなところから話を進めたい。
まず簡単に結論的な言い方をすれば,明朝体と(筆写の)楷書は一対一の対応はない。
たとえば右図は明朝体と楷書体(印刷書体)のエレメントの例である。これは書体デザインを特徴付けるものであるが,一対一に対応しているように見える。しかしそれは印刷書体としてのエレメントを示しているからであって,筆書の楷書と比較すれば実際には一対多なのである。したがって明朝体は楷書字形の構造的特徴のすべてを表現し得ない。エレメントの種類は,ここに掲げた程度の種類には留まらないから,もちろんこれだけで判断するわけにはいかない。そこで実例で解説することにしよう。
左図の左は楷書,右は明朝体の「巾」という文字であるが,まず楷書の筆法を見ておく。ここには3本の縦線がある。その収筆に着目してほしい。左の縦線は筆をしっかり止めており,右の縦線は左にはねているのに対して,中央の縦画収筆は下に引きながらゆっくり抜いていることがわかる。これは運筆を考えれば十分に理解できる。とくに文字の最終画が縦画の場合,次の文字をスムーズに運筆するために,しっかりとめてしまうということをしないのが普通であろう。
つぎに明朝体をみると,左と中央の縦線収筆形状が同じであることがわかる。これが意味することは明白である。明朝体では縦画を「止めて収める」場合と「ゆっくり抜く」場合を字形要素上で区別しないのである。
もう少し楷書の筆法をみておこう。つぎに示すのは空海筆と伝えられる『請来目録』の一部であるが,「年」,「十」の縦画収筆と「不」の収筆では,その処理が異なることがわかる。「年」,「十」においては縦画が最終画になり,収めずに筆を抜いているが,「不」の場合は縦画を書いた後に最終画の「点」を起筆することになるから,しっかり止めるだけでなく,虚画として筆が上に向かうために「止めた後に筆を上に引き気味にして離す」ことになるのである。
楷書は筆の動きを忠実にトレースし得るのに対して,明朝体として確立された様式では正しくトレースすることはできない。それは楷書の持つ複数の種類の表現をひとつの形状表現にまとめてしまっているからなのである。こうした点を踏まえずに明朝体の字形を論ずることは無意味である。
posted by gen : 2007年01月28日 23:13
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