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2006年11月13日 …【社会現象としての文字】

社会現象としての文字(3)

甲骨文字の字形バリエーション

前回は「鳳」の文字のバリエーションを紹介した。次図はいずれも「龍」を表わす甲骨文字である。
甲骨文字龍のバリエーション.JPG
時代によって,あるいは書き手によって,あるいは状況によってさまざまに変化しているのであろう。ただ,これらの「筆法」の違いを構造的に説明できるだけの知識は持ち合わせていない。これらの差を今風の「字体差」と決め付けてよいのかどうかさえ定かではない。

鏡面対称の甲骨文字.jpg
次の図は同じ義を持つ甲骨文字であるが,ちょうど鏡面対象になっている文字の例である。これも今風に言えば異体字であるが,甲骨文字ではそうとも言えない。
前回にも述べたように,甲骨の種類や形状によって行の進行方向も変わるのであるが,鏡面対象文字の存在は,このこととまったく無縁とは思えない。意図は異なるものの,ヒエログリフの鏡面対象文字と同じレベルの差とも解釈できそうである。つまり,異体字・異字形というカテゴリーで論ずる性格のものではなく,単に「同一文字の反転形」と見たほうが妥当のように思われる。ある意味では文字字形に対してたいへん融通無碍な思想を持っていたとも言えるかもしれない。

金文の字形バリエーション

甲骨文字と金文には,実は考えられているほどの字形的差はない。形状の差は,筆記用具の差といってもよい。硬い亀甲や獣骨にスタイラスで彫り込んでいく甲骨文字は刻線がシャープだが,粘土で型を取って作る青銅器の銘文に用いられる金文と言われる文字は柔らか味が出てくるのは当然である。
さて,その金文であるが,以下の話は前回にも紹介した東方書店編『中国古文字と殷周文化』に収められている裘錫圭(チュウ・シークイ)氏の講演「殷周古代文字における正体と俗体」からのものである。
二つの青銅器の銘文に記された金文.JPG
上の二つの図を見ていただきたい。これらは陜西省武功県で出土した西周中期の銅器であるが,同一人がつくったもので,銘文の内容もまったく同一である。しかし文字のイメージはかなり異なる。書風も異なっているのはパッと見ただけでわかる。
はっきり言えば左の文字は端正で大きさなども揃っているが,右の文字は雑な感じで大きさもバラバラに見える。

金文ウカンムリ二種.jpg
図は,この中の「ウカンムリ」であるが,左は端正な方,右は雑な方の字形である。同時代に同一人が書いていながらふたつの字形が見られるということは,これらが並存していたということであり,裘錫圭によれば,これは正体と俗体の関係にあるという。その後の時代のものでは端正な銘文にも右の字形が用いられるようになったとのことで,初期のころの俗体が,後には正体の位置を占めるようになっている例といえる。
これは漢字の字形を考えるに当たって,たいへん示唆に富む現象と言えるであろう。なぜなら,この種の現象はいまにも通じているからである。


posted by gen : 2006年11月13日 22:54

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