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2006年11月09日
…【社会現象としての文字】
社会現象としての文字(2)
まず,ヒエログリフから
時代とともに文字は増え,また変貌を遂げる。しかし文字は最初から単純なものではなかった。たぶん,どんな文字体系の文字でも言えることであろうと思われる。
そこで,まず古代エジプトのヒエログリフをみてみよう。ヒエログリフの詳細は略すが,一種の絵文字である。そこにはさまざまな動物の姿も文字になっているのであるが,よく見ると右に向いていたり左を向いていたりしている。そしてそれは同一の意味である。
ヒエログリフは原則として右から左に読むが,人や鳥などの絵文字がある場合,その頭部が向いている方が文頭になる,という規則があった。しかし,その文のそばに位の高い神の像が彫られている場合には,読む方向に関係なく頭はそちらに向いてしまう(ジョルジュ・ジャン著『文字の歴史』)。
ちなみにヒエログリフは左から右に読む場合もあれば,下から上に読む場合もあった。また,ブストロフェドン方式で読ませるものもあった。ブストロフェドンとは牛耕式と訳されるが,文字を右から左に書いていったら,次の行は左から右へ,というように交互に字詰方向が変わる方式である。
下図は河出書房新社刊『クリスチアヌ・デローシュ=ノブルクール著 小宮正弘訳『エジプト神話の図像学』2001よりルクソール神殿のヒエログリフ(ブルンナー・トラウトの素描による)である。左右対称の文字がいくつも確認できる。

ところで,古代エジプトの彫刻においては神が中央に位置することが多いから,必然的に左右対称形の配置になる。ヨーロッパの建築から室内の装飾にいたるまで,左右対称の美学が今なお支配しているが,そのルーツはこのあたりにあるのではないかとひそかに思っている。
それは余談として,左右対称の字形を「同一」と判断することは,いわば常識であったということを強調しておきたい。文字同定の基礎と無関係ではないと思うからである。
甲骨文字の世界では
甲骨文字は漢字のルーツであることはよく知られているが,一般的にはかなり原始的かつ未成熟の文字体系と見られているようである。私は甲骨文字の専門家ではなく,たいした知識を持っているわけではないが,台湾でアドバイザをしていたころには甲骨文字の研究書をいくつか買い込んで勉強した。その感覚から言えば実際にはむしろ相当に完成された体系であったように感じられる。
次図は殷墟の大連抗というところから出土した亀甲大版である(東方書店編『中国古文字と殷周文化』1989より引用--本書は同名のシンポジウム講演録)。

この左右対称性は,基材としての亀甲の左右対象性と関係している。ここに図示したパターン以外にも,いくつかの書写方向のパターンが存在し,ほぼ左右対称である。
ところが基材が左右対称形ではない獣骨になると,書写方向の左右対称性もなくなる。つまり甲骨の種類(というより形状)によって書写方向をコントロールしているのである。
こうしたこととの関係はよくわからないが,甲骨文字には左右対称の異体字(?)がかなりある。それだけではない。さまざまな異体字が用いられていたのである。
図は異体字の例である(朱歧祥著『甲骨学論叢』台湾学生書局刊より引用)が,偏旁・冠脚の入れ替え,要素の変形・欠落など,いまの漢字のと同様のバリエーションがすでに存在している。


posted by gen : 2006年11月09日 23:20