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2006年11月05日 …【社会現象としての文字】

社会現象としての文字(1)

時代とともに漢字は増える?!

手書き文字のユレについて,簡単な分析を行った。この中で,「文字は生き物であって,とくに筆写という行為そのものがダイナミズムである」という趣旨のことを述べたが,これは個人レベルの書写行為に留まるものではなく,社会現象として捉える必要があると思っている。漢字の形・音・義のすべてが,社会との何らかの関連から独立ではいられない存在なのである。
そこで今回から少し,この視点から検討をしていくことにしたい。
まず,いま問題にされるのは漢字増殖と字形の混乱にあるのではないかと思っているのであるが,これらは今にはじまったことではない。非常に古い時代から,(あたりまえのことであるが)文字は社会の流れの中で育ち,変化し続けてきたのであり,それに伴って必然的に漢字は増殖を続け,その使い方や表記にもさまざまな誤解や混乱が生じている。

そこで社会現象と文字との関係を考えるに当たって,今回は辞書における漢字数の変化に注目しておきたい。

本格的な漢字辞書としては許慎の『説文解字』が最初といわれている。収載字数9,353字,はじめて「部首」の考え方が採られた辞書でもあった。西暦100年ごろに,すでに1万字の漢字が一般に使われていたというのはすごいことのようにも思えるが,そのはるか昔,殷の時代に使われていた甲骨文字でさえ,いま確認できるものだけで4,000字を超えるのであるから,びっくりするほどのことではないとも言える。
その後の漢字辞書の収載字数の推移を見ると,

辞 書 名 制 作 年 代収 載 字 数備   考
玉 篇粱(543年)16,917字後にかなりの増補改訂がなされている
広 韻宋(1008年)26,194字206の発音(韻)に分類して収めている
洪武正韻明(1375年)32,254字『広韻』同様,韻によって分類
字 彙明(1615年)33,179字現在の214部首がはじめて採用された
正字通明(1680年)33,444字『字彙』を基につくったという。
康煕字典清(1716年)47,035字『大漢和辞典』のベースになった

こうして諸橋轍次著 大修館書店刊『大漢和辞典』(50,478字)につながるのであるが,時代が下るにしたがって収載字数が増加していることがわかる。いったい,この傾向は何を意味すのであろうか。
それを知るためには字種,正字・俗字・通用字などの比率を詳細に分析した数字を見ていく必要があるが,ざっくりした言い方をすれば,時代とともに書物も増え,また生活に浸透していく度合いが深まるにしたがって多様な用いられ方がなされるとともに,社会が変わっていけば新たな語彙や用法も新たに生まれることになり,結果として漢字の世界は膨張し続けることになるという現象に結びつくといえるのではないであろうか。
漢字に限らず,言語一般は使われているかぎり変貌を遂げる。これは宿命である。変化が止まったときには,その言語が死滅するときなのである。

posted by gen : 2006年11月05日 21:45

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