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2006年10月15日
…【文字の違いとは何か】
文字の「違い」とは何か(6)
常用漢字表,表外漢字表にみる筆写の字形の考え方
「常用漢字表」の「字体についての解説」には,筆写の楷書ではいろいろな書き方があるもの,として,
- 長短に関する例
- 方向に関する例
- つけるか,はなすかに関する例
- はらうか,とめるかに関する例
- その他
一方,「表外漢字表」では「印刷文字字形(明朝体字形)と筆写の楷書字形との関係 」という項を立てて,以下のような解説を付している。
表外漢字における印刷文字字形と筆写の楷書字形との相違は,常用漢字以上に大きく,常用漢字表でいう字体の違いに及ぶものもあるので,この点については特に留意する必要がある。そしてさらに,
そのような字形の相違のうち,幾つかを例として掲げるが,これは,手書き上の習慣に従って筆写することを,この字体表が否定するものではないことを具体的に示すためである。以下,「明朝体字形」を先に掲げ,次に対応する「楷書字形の例(明朝体字形に倣ったものの例/手書き上の習慣に従ったものの例)」という順に並べて示す。として,12例を図示している。
なお,このBLOGに目を通される諸氏は「常用漢字表」や「表外漢字表」には精通されているであろうから,この内容および図は,ここには掲げない。
しかし,これらの「筆写字形」はほとんど正規化されてしまっているのが気になるところである。文字は生き物である。とくに「筆写」という行為そのものがダイナミズムであり,しかも,そのダイナミズムには,
- 一般的傾向としてのユレ
- 個人差
- 個人内でのバラツキ
たとえば「表外漢字表」の上記12例の図版では(10)の「遡」と「腿」については,“(10)で「明朝体字形に倣った例」を省略したのは,楷書字形としては一般的でないという判断に基づいたものである。”との注釈をつけた上で「明朝体字形に倣ったものの例」を除いているが,これはシンニョウの筆写(楷書体)字形と明朝体字形はまったく異なり,明朝体字形に倣った書き方はしない,という前提でまとめたことによるのであろう。
しかし実際に一般の人たちが筆写するシンニョウの字形の多くが,実は明朝体風になってしまっているのである。もちろん硬筆系を含めて書をやっている人たちは楷書のシンニョウ字形を書くであろうが,社会に流布している手書きのシンニョウは,むしろ明朝体風が多数派のように思われる。とくにキチンと書かねばならないときほど,その傾向が強いように感じられる(残念ながら統計を取ったわけではなく,周囲の手書き文字を見渡したかぎりでの感想に過ぎないが)。
楷書で手書きしなければならない文書もあるが,シンニョウについては明朝体風で書いてもそのまま通ってしまうご時勢ではないであろうか。
こうした社会事象を踏まえて文字字形を論ずることが肝要であろうと思うのであるが,現実はそうともいえないのが残念である。
実際の筆写字形のダイナミズムを考える
前回には「女」を例に「出る・出ない」の問題を論じた。たかが「出る・出ない」ではあるが,筆記具の動かし方を含めて分析すると意外に奥が深い。筆順などを配慮すると,むしろばらつかないほうがおかしいというケースも多いのである。
たとえば「告」(これが部分字形になる文字でもよい)を考えてみよう。三画目の縦画は四画目の横画の下には出さない。ここが出ると「牛」になってしまい,文字によっては「新字・旧字」の関係になって「出る・出ないの瑣末な差」では済まなくなる。
しかしこの問題の部分は「女」とよく似ていて,当該箇所の「出る・出ない」を最終的に決めるのは,その後に書くストローク次第になってしまうのである。縦画を収める位置をいかに慎重に定めたつもりになっても,次のストロークである横画の引っ張り方次第で,出たり引っ込んだり,ということになるから,早書きをしたり多少でも雑な書き癖がある人にとっては,どうしてもバラツキがでてしまう構造なのである。
ただ,前にも述べたことであるが,「田」の三画目の縦画が上に出ると「由」になり,下に出れば「甲」に見える,ということがわかっていれば,できるだけ出さないように注意するという意識が生じるであろう。ちなみに「田」の三画目縦画が上に出てしまうということは,普通に書いているかぎりあまりないかもしれない。なぜなら三画目の起筆の基準とすべき二画目がすでに書かれているので,単に二画目の線上からスタートさせればよいからである。その代わり,収筆部の「出る・出ない」は最後の横画が引かれてはじめて確定するわけであるから,どうしてもバラツキが大きくなる。
しかし本項(2)(9月26日)に電総研が集めた手書きの「田」字の一部を掲載したが,三画目縦画起筆部が正しく付いていないものも多く,そういう意味では理屈だけで説明できる世界ではないことがわかる。ただ,この資料を見ていると三画目縦画起筆部が正しく付いていない文字は他の箇所も中途半端なものが多く,書き手の性格が出ているのかもしれないとも推定できそうである。
手書き文字のユレを分析する場合,最低でもこれらの「状況把握」をできるだけしっかりしておく必要があるものと思う。先にも少し触れたように,同一人でも状況に応じ,場合によっては心理的な原因で文字の書き方が変わるものである。
こういうことを踏まえて,これから手書き文字の字形のユレを考えていくことにしよう。
まず「出る・出ない」レベルの差異の種類がどのぐらいあるかを考えてみる。結論的には,おおよそつぎのように分類できるのではないであろうか。
- 出る
- 出ない(交わる・交わらない)
- 付く・付かない(離れる)
- ハネル・ハネナイ
- 払う・押さえる
- 払う・縦画
- 曲げる・直線
- 点・横画
- 点・縦画
- 起筆位置の差
- 曲げ方の差
- (相対的な)長さの差
- その他
posted by gen : 2006年10月15日 21:15